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最高裁判所第一小法廷 昭和39年(オ)748号 判決 1965年7月15日

上告人

高本一人

代理人

上野開治

補助参加人

馬場光太郎

被上告人

株式会社酒井商会

代表者代表取締役

酒井吉生

代理人

古川公威

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人上野開治の上告理由第一点について。

所論自動車修理料債権が民法一七三条二号所定の債権に該当するものとは解されず、従つて同条所定の短期時効によつて消滅するものとはいえないとした原審の判断が後述のように正当である以上、その時効援用権が上告人にあることをいう論旨は、結局判決に影響しないことを論難するにすぎず、採用の限りでない。

同第二点について。

原審の認定判示するところによれば、被上告人は自動車修理工場を設け自動車の修理業を営む会社であるというのであるから、原判決が本件自動車の修理によつて被上告人に生じた所論修理料債権を民法一七三条二号所定の居職人の仕事に関する債権とは解されないとして同条所定の二年間の消滅時効に服するものとはいえないとした判断は、正当であつて、その点に法律解釈の誤りは存しない。所論は、独自の見解にすぎず、採用できない。

同第三点について。

留置権者が民法二九八条一項および二項の規定に違反したとき、その留置物の第三取得者がある場合は、第三取得者である所有者も同条三項により留置権の消滅請求権を行使し得ると解するを相当とする(昭和三三年(オ)第五二七号同三八年五月三一日第二小法廷判決民集一七巻四号五七〇頁参照)。

しかるに、原判決は、上告人が本件留置物の第三取得者である旨認定判示しながら、留置権者の保管義務違反により留置権が消滅するのは債務者の消滅請求によるべきであつて、本件修理代金債務の債務者である馬場光太郎がこのような請求をなしたという主張立証のない以上、債務者でない上告人がこのような請求をなしても無効である旨判示し、被上告人に保管義務違反の事実が有るか無いかにつき何らの判示もすることなく、被上告人の有する留置権が保管義務違反により消滅した旨の上告人の主張を排斥している。従つて、原判決は、民法二九八条三項の解釈適用を誤り、かつ、審理不尽、理由不備の違法あるというべく、この点の論旨は理由があるから、その余の論旨につき判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、更に右の点の審理判断を遂げしむため、本件を原審に差し戻すべく、民訴法四〇七条一項により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 岩田誠)

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